vol.30

レコーディング報告 3

一曲だけ、もう一つ何かの音が欲しい気がして悩んでいたのですが、僕のファーストアルバム「Believe」のプロデュースをしてもらった長田進さんが参加してくれました。
ギタリスト、プロデューサーとしてもますます活躍中の長田さんは、それまである意味システマティックに物事を進めなければいけなかった場所から、本当に自分にとっての音楽が何なのか、アーティストにとって「やりたいこと」と「やるべきこと」の間には何があるのか、そんな事を僕に考えさせてくれた人でもあります。なんでもかんでも口を出すことで仕事をした気になっている人と違い、長田さんは常に寡黙です。あのコワモテなルックスと低い声で、基本的に「いいね」と「どうかな」の二つの言葉で全てを判断します(多少脚色あり)。
最近「ちょいワルおやじ」というのをよく聞きますが、長田さんの見た感じははっきり言って「激ワル」だし、第一印象が「優しそう」という人はまずいないと思われますが、反面、音楽に向かう姿勢や演奏の善し悪しを聴き分ける耳は恐ろしく繊細です。そんな長田さんはアーティストが発信する物をとても大切にして、時として一緒に戦ってもくれる、僕にとって頼もしい先輩のような存在です。

今回持ってきてくれたこのナショナルというブランドのギター、実はジャクソン・ブラウンから浜田省吾さんの元に届けられ、それが長田さんに預けられたという物です。世界に3本しか存在しないとか。一体何の木で出来ているのかさっぱりわかりませんが、なんだか楽器と言うより家具みたいです。塗装の感じもアクリルとかラッカーではなく「ペンキ」みたい。音もかなり変わっていて、これは良い音なのだろうか?という感じなのですが、長田さんが弾きはじめると、これが全く違う「他の楽器には出せない音」に変わってしまいます。まさに長田マジック。
スタジオでは時折そういうマジックが起こります。それは起こそうとしてできる物ではないのですが、確実に言えることは、その魔法を起こせる人と、そうじゃない人に別れる、ということです。
当然だけど、僕のギターと長田さんのギターは全然違います。
だからこそ一緒に音楽を作ったり、演奏したいと思うのです。必要に迫られたこともあって、僕は音楽制作のほとんどの行程を自分で把握出来るようになりましたが、やはりその上で必要なものがある、ということに改めて気がつきました。贅沢というのはいくらお金を使ったかではなく、きっとこういうことなのです。

そして全ての録音を終えてミックスに突入。これまでの作品も素晴らしく良い音で録音してもらえましたが、今回はアナログのテープレコーダーとヴィンテージのマイクやヘッドアンプを用意してもらえたことで、自分の理想に近いサウンドが出来ました。特にドラムやベースの説得力にはぐっと来ます。
自分の好きないろんな種類のレコードを聴きながら比べてみたりもするのですが、今回気がついたことは、優秀なエンジニア/プロデューサーの手掛けた作品は録音、アレンジの段階から、その音がどうあるべきがが明確だということ。何気なく聴こえる音の奥には、やはりその道のプロのダイナミックな発想や、それを形にするテクニックが沢山詰まっているのです。やればやる程気がつくことは多くて、その分また理想が高くなっちゃいます。
普通はそんなことを感じながら音楽を聴く人はほとんどいないと思いますが、誰でもお手軽に音楽が作れる昨今だからこそ、そういう気持ちのこもった音は必ず何か違う形で人の心に届くような気がします。

次回、何度か手直しをして、完成した物を最終行程のマスタリングの作業へ進みます。

2006.3.14

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