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vol.16
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このところ取りかかっている作業ですが、有里知花ちゃんの新作です。前回はアレンジ/サウンドプロデュースという形で参加させて頂いたのですが、今回は曲を作る所から、というかなり深い次元からお手伝いする事になりました。こうなるともはやお手伝いの領域ではなく、みんなで一緒に作品を作るという感じです。
まずは僕の作ったメロディーに知花ちゃんが歌詞を付ける、という第一段階を経て、総合プロデューサーであるファイブディーの佐藤剛さんに入ってもらい、曲の全体像を作って行きます。今回剛さんから出ているテーマは「プロの役割分担」みたいなことで、要するに僕は作曲とアレンジ/サウンドプロデュースの部分をいかに職業的な視点でこなせるか、という今までにないチャレンジをする事になります。僕みたいな間口の狭い人間にそんな事が出来るのか、やってみない事にはわかりませんが、なんとか曲は完成しました。今回はメロディーと歌詞、という基本的な部分に剛さんはとてもこだわっていて、びっくりするような要求やアイデアが飛び交ったので、僕と知花ちゃんはその度に固まったり眠れなくなったりしましたが、その甲斐あってとても良い曲が出来ました。
これからレコーディングに入るための第二段階へ。どんなミュージシャンと、どこで、どんなふうに録音するか、など大切なことが沢山ありますが、とても楽しみです。
佐藤剛さんの言う「プロの分業」という話に戻ると、最近は僕も含めて作詞作曲、演奏、打ち込みやエンジニアリングまで自分でやる人が沢山いるので、どんどん音楽制作の現場はコンパクトになってきています。つまり、コピーとファックスとスキャナとプリンターが一緒になっている複合機のようなもので、一人のアーティストにプロデュースを任せてしまえば大体の事が済んでしまうのです。最初から最後まで曲のイメージを一貫して管理できると言う点で、アーティストにとってはすこぶる理にかなったやり方とも言えますが、それには単純に景気が悪くて人を使ってる予算がないという現実的な側面や、誰もが安価に良い機材が買えるようになって、高いクオリティーの物が作れるようになったという背景もあります。速い、安い、ウマい、というとても合理的なやり方です。
でも音楽制作の歴史を振り返ったとき、「歌手」「演奏家」「作家」「エンジニア」と言うようなきちんとした分業がなされていた時代のプロフェショナリズムのようなものがどんどん希薄になってきているとも言えるかも知れません。今やみんながミュージシャン、誰でもアーティストになれる時代です。だからこそ逆に本当に手をかけた物を作って提供したい、というのが今回の剛さんのテーマなんだと思います。敢えて時代の流れに逆行するようなこの姿勢にロックスピリットを感じるのは僕だけかもしれませんが、そんな気持ちをなくさずにいたいものです。
有里知花ちゃんは今時珍しい、かなり貴重な「歌い手」だと僕は思っています。ごく普通の女の子のようでいて、歌い始めるとやっぱり特筆した歌手としてのオーラが放出されます。お父さん、お母さんも音楽家という環境もあると思いますが、上手いとか下手とか以前に、その歌声には明らかに普通の育ちの人とはかけ離れたきらめきのようなものがあるのです。その才能を「売れるか、売れないか」と言う部分だけではなく、まず「良いもの」をきちんと作る、という事に向けてもらえる今回のような贅沢なプロジェクトには、実はなかなか巡り会うことは少ないのです。そういう意味でも今回の僕のチャレンジは、大変だけどとてもやりがいがあります。
食べ物だって速い、安い、ウマいというのも良いけれど、少々値段が張って時間がかかってもわざわざ食べたいと思うものが全くなくなっちゃったら淋しいです。僕はファーストフードも支持するし、コンビニのような便利さはとても有り難いと思うけれど、やっぱり時々は贅沢をして手間のかかった美味しい物をゆっくり食べたくなります。
CDの値段は高いとか言われているけど、考えてみたら本来音楽はなくても生死に関わるようなものではない「贅沢品」なのです。僕はもっともっと高くて当然な物もあるし、その逆もあって良いような気もします。音楽の価値は値段を超えた所にあるのです。少なくとも僕にとっては。
とにかく、みんなの気持ちがこもった新作はきっと良いものになる、と信じてます。
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