vol13.

時間のもたらすもの

もうそろそろ春の匂いがして来ました。この「匂い」って言うのはなんなのでしょう。季節の匂いはおでんやタコ焼きのそれのように、ダイレクトに嗅覚に訴える物では無く、においのない「匂い」なのです。それはある日突然やってきて、すぐには気付かれないように慎重に、でも確実に季節を変えて行くのです。
僕のCD「winter」はこの冬の間作っていたから、という理由で付けたタイトルですが、もうすぐこの冬が終わってしまう事を思うとちょっと寂しくなったりもします。僕がこの曲を作っていた季節は、当たり前だけど、もう二度と来ないのです。
そんな冬も終わりに近付く中、ちょっとした用事があって久々に電車に乗って実家に帰ってみました。新幹線で仕事に行く時以外は殆どクルマで移動している日々なので、一人で特急列車に揺られるのはなかなか新鮮です。途中で昔読んだ事のある短編集の文庫を買って、お弁当とお茶を用意し、準備オッケー!。僕は何処かへ移動している「隙間」の時間が結構好きなのです。
何故わざわざ読んだ事のある本を手に取ったかと言うと、その頃の自分と今の自分で、どの程度物語に対する感覚が変わっているのか、興味があったからです。いくつかの短いストーリーがまとめられたその本の中で、僕が特に気に入っていた物が在ったのを思い出して、読み直してみました。やっぱり随分とイメージが違います。僕がその本を読んだのはもう10年以上前。今読み返してみると、無駄な部分や、展開に無理があるような気がしたり、ちょっとまわりくどいなあ、なんて思ったりもしたのですが、最後まで読んでみると、不思議とその当時受けた感覚と全く同じ物が僕の中に残りました。それは、変わらずに僕の中で、ビフィズス菌みたいに生きていたのです。いろんな本を読んだり、物を書いたりするうちに、僕の中で変わった事は沢山在るのかも知れません。それは多分「無駄な部分」を見極める力だったり、「展開に無理がある」と感じる力なのです。でもそれって成長なのか?とふと思いました。そこに何かが在るのか、ないのか、それを感じる力さえ在れば、実は充分なんじゃないか、とも思います。
でも、その短いストーリーの中には、確実に僕の心を動かす何かが存在したし、それが今も存在し続けている、と言う事が確認出来たので、なんとなく納得して(何に対してかわからないけど)列車を降りました。
僕の作った音楽は、10年後に聴いた時、どんなふうに聴こえるんでしょう?そこに何かが在るのか、無いのか、そこが問題です。


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