
vol.6
|
上海通信
初めて中国に行ってきました。今をときめく急成長都市、上海です。
中国に何の縁もゆかりも無さそうな僕が行く事になったのは、最新アルバムでお仕事をさせて頂いた有里知花さんのライブが11月7日に上海であったためです。
先月日本でも行われたイベント「in the city」の上海版をやるということで、蓋を開けてみたら一緒に出演する安藤裕子さん、myuさんという二人のアーティストのサポートもやるらしい、ということ。そして一緒にサポートメンバーとして参加するのはGreat3の高桑さんと白根さん、安藤さんのアレンジャーでもある山本さんという顔ぶれ。
安藤さんはとても美しい方で、女優業もされているとのことですが、楽曲や歌詞のオリジナリティーや抜群の歌唱力、そしてその凛とした存在感は良くある「女優アーティスト」とか「ロック俳優」とは一線を画しています。一言で言うなら、タダものではありません。山本さんのアレンジも楽器の音使いやフレーズのセンスがツボにはまる感じで、これから期待度高です。
myuさんはこれまたとてもキュートでかわいい女の子なのですが、歌いはじめるとまさに水を得た魚の様で、素晴らしい歌唱力の持ち主。でもプロのお手本のような洗練されたアレンジと、初めて押さえるような分数コードと転調の嵐に僕がいっぱいいっぱいになってしまい、本番でミス連発。myuさん、本当にごめんなさい。僕にはまだまだ修行がたりませぬ。
それにしても知花ちゃん含め、こんなにルックスも良くて歌も上手な女性が3人も目の前にいると、「天はニ物を与える」と言わざるを得ません。この際ハッキリ言うと、やっぱり世の中は不公平なのです。
さて上海ですが、空港はとても近代的な建物で、着いた途端にはあんまり外国にやって来た実感が湧きません。初めて外国を感じたのは入国審査の時。やっぱりちょっと雰囲気が違います。
みんな並んで待っているのですが、コロコロ窓口の位置が変わっちゃいます。ある瞬間は外国パスポート用、5分後には中国のパスポート用、って感じで、どこに並んで良いのやら判りません。僕はどういうわけか役所とか街のお巡りさん、学校の先生等、与えられた小さな権限を可能な限り行使したがる人達の標的になりやすいので、ここでも何か言われる事は予想していたのですが、案の定文句を言われました。どうやら「名前をはっきり書け」と言っていたらしいです。僕はそんなに達筆ではないのでどこから読んでも見間違えるような文字ではないのですが、凄い形相で小文字を大文字に書き直されて驚きました。小文字は読めないのか?と思いきや流石にそんな事があるはずはなく、他の人は何ごともないようなので、多分お腹がすいてたとかそんな感じだったのだと思われます。やれやれ。
空港を出発してからしばらくは何にもありません。ただひたすら地平線が高速道路から見えます。だんだん街に近くなってくると、集合住宅が立ち並ぶ場所がいくつも出て来るのですが、これがみんな公団を20個ぐらい集めたような感じで、同じ建物が(しかもデカい)いくつもいくつも並んでその一角に建っています。せっかくなら少しは違う建物にするとか、合理化するなら大きな一個の物にしてしまえば良いのに、とも思うのですが、そこにはきっと何か計り知れない事情があるのでしょう。
しばらく走るとNYのブルックリン橋の様な橋を超えて市街地へ入るのですが、橋から見える湾に面して並んでいる大きな貨物用のクレーンや工場の感じを見ていると、なんだか懐かしい感じがしました。そう、それは紛れもなく「昭和」な雰囲気です。石原裕次郎や小林旭がギターを背にアンカーに足をかけてタバコを燻らせていそうな感じです。そして物凄い高層アパートの数々。そしてその窓から飛び出している洗濯物にはびっくりしました。どう見ても地上80メートルくらいの高さから、みんな洗濯竿を直角に出して洗濯物を干しています。いくら何でも洗濯物を干すには高過ぎです。もしもあそこに住むことになったら、高い所があまり得意ではない僕は洗濯物さえ干せません。そんな小さな事に感動していると、バスは市内に入り、すっかり都会の街並。ですが、何でもデカいです。上海は凄い勢いで開発が進んでいるらしいですが、六本木ヒルズみたいなのがごろごろしています。
そして今回の会場、新天地ARKへ到着。その辺りはもう絶好調に進んでいる場所らしく、ケンタッキーやらスターバックスやら、殆ど何でもあります。すこぶるきれいな建物にレストランやらブティック、映画館等が連なっていて、渋谷と表参道と六本木をまとめたような状態です。ARKという会場はとても雰囲気の良い場所で、1階、2階を合わせればスタンディングで700人くらいは入れられそうです。バンドメンバーと「東京にこんな感じのライブハウスがあったらちょうど良いよね」という共通見解。会場入りしてしまうとお金も換えていないし、右も左も判らないので外出は出来ず、出演者の方々の記者会見等が済むまで待ってそのままホテルへ。
僕達が泊まったのは一応四つ星!ホテルだったらしいのですが、残念ながら水は飲めません。バスタブに溜めるとお湯が微妙に茶色かったりします。その四つ星が果たしてミシュランの星なのかどうか定かではありませんが、現場チーフ曰く、「あと1万5千円払うと水が飲めるホテルになります」との事。飲める水が出るホテルはとんでもなくブルジョワな所らしいです。売店に行ってみると、ビールが5元位なのに、エビアンが10元。エビアンはかなりの高級品です。ホテルの売店にも関わらず、会計はレジではなくそろばんで、昔おばあちゃんの家の近くにあった駄菓子屋を思い出します。何も上海まで来てそんな事を思い出さなくてもと思うのですが、人間の記憶は不思議なものです。 部屋を見回すと、まずドライヤーはありません。シャワーの壁に付いている容器には、「シャンプー、リンス、バスフォーム」と書いてあります。リンスインシャンプーって言うのは良く聞くけど、3つ一体型は初めてです。別に困るわけじゃないんだけれど、何か微妙に納得出来ません。
とりあえずフロントまで出向いて「ドライヤーが使いたいんだけど」とつたない英語で言ってみたのですが、「ベルボーイ」と言われ、改めてベルボーイさんに聞いた所、インフォメーションのお姉さんの所へ連れて行かれた挙げ句「Sorry,closed」、と言い放たれました。何か面倒な申請を役所に持って行った時の様な対応です。それにしても何故ホテルのドライヤーが閉店になってしまうのかさっぱり判らないので「どうしたらドライヤー使えるの?」と聞いたら「明日の9時過ぎには何とかなるかも知れない」と言われ、諦めました。恐るべし四つ星ホテル。
さて、唯一の楽しみとも言える食事ですが、みんなでロビーに集合して向かった先は、何やらちょっと高級な感じのお店でした。あのクルクル回るテーブルの席にみんなで座って、ひとまず青島ビールなどを飲んでいると、色んな料理が運ばれて来ます。生の海老を老酒に漬けたものとか、貝をその10倍くらいの唐辛子の中に入れて炒めた物、蒸し鳥、角煮みたいな物、魚の煮付け等、みんなおいしいのですが、謎な部分が非常に多いです。何かの茎らしい野菜の炒めものや、何かの葉っぱを炒めた物。蟹と何かをあんかけ状に煮たもの。豚の耳ともくらげとも付かない何か。「何か」だらけです。美味しいことに変わりはないのだけれど、一体何なのかが良く判りません。判らない物を食べるという事がこんなにもスリリングな体験だとは思いませんでした。例えそれがお洒落な高級レストランであってもです。今になってもあの野菜の正体が何なのか気になって仕方がありません。
あくる日はライブ本番。サウンドチェック後、初めて3時間程外出することが出来たので、メンバーとプチ観光をしようと言う事になりました。ひとまず有名な土産物屋街に出かける事になったのですが、2台に分乗したうち1台のタクシーが待ち合わせ場所に現れず、行方不明になってしまいました。どうやら違う場所で降ろされてしまったらしいです。結局たまたま立ち寄ったお茶屋さんで中国茶の試飲中に合流出来て一安心。
しかし、ホッとしたのも束の間、実はこれからが大変でした。帰りのタクシーがつかまらないのです。いや、厳密に言うとタクシーを「奪われる」と言った方がいいです。それはもう「タクシーのひったくり」とでも言うべきもので、空車のタクシーを見つけて止めようとすると、横からフツーにおっさんとかが体当たりして来るのです。おっさんは凄い勢いでドアを空けて乗り込み、何食わぬ顔で乗って行ってしまいます。乗る方もひどいけど、そのまま乗せてく運転手も凄い。恐るべき交通事情です。一言で言うと、上海には交通ルールは存在しません。あるのかも知れないけど、少なくとも交通マナーは絶対にありません。人も車も自転車も、とにかく突っ込んで来ます。そして呼吸と同じくらいクラクションはひっきりなしに鳴らしまくります。止まっては鳴らし、動いては鳴らし、車を降りれば鳴らされます。でも考えてみたらそれがマナーなのかも知れません。
かなりの苦戦の末なんとかタクシーを奪って会場まで戻り、本番へ。
お客さんが日本とは違い、ずっと喋ってます。MCしようと思いっきりバラードをやろうと、ずっと喋ってます。日本独特の「キャー!ワー」そして静寂、というパターンもどこかヘンですが、ライブを見に来てるとは思えないテンション。スタッフの方曰く、「ライブを見るということそのものに慣れていない」という事らしいですが、思わぬ所で違いを感じました。
本番終了後にまたみんなで食事にいったのですが、またしても謎の食材が続出。一見コロッケのように見えるけど、食べると甘いカスタードクリームがいっぱい詰まっているものや、みんなが「ウレタン」と呼んでいたウレタン状のお餅のような何か。そして極め付けは、別チームが頼んだらしい「タガメ」(ゲンゴロウっていうのか?)の唐揚げ。僕はああいう黒くてピカピカしている虫を見ただけで全身から冷や汗が出て来るのに、しかもそれが揚げてある上、お皿にいっぱい乗っているのです。まさに悪夢です。思い出しただけでも充分にブルーな気分になれます。
次の日朝6時に出発というスケジュールだったため、腹を決めてそのまま朝まで飲みに行くチームに参加したのですが、連れて行かれたのがまた謎な通り。パトカーが通りの両端を塞いでいるのですが、その中に入るとクラブや飲み屋が立ち並んでいて、中国とは思えない状況が繰り広げられています。ここもなにかの「特区」なんでしょうか。なんだか良く判らないけれどなかなか面白かったです。
そしてそのままホテルのロビーに戻り、出発の時間までさらに1杯飲んで(飲み過ぎです)なんとか無事に飛行機に乗る事が出来ました。
たった3日(ほぼ2日だけど)しかいなかった上、殆どどこにも行けなかったのですが、何となくイメージとしての上海は強く心に残りました。凄い勢いで変化している場所から生まれる、何か意味不明なエネルギーが充満しています。これから5年もするとまた全然違う街になっているでしょう。その時にもう一度行ってみたい気がします。
2003.11.14
|
|