vol.4

コロッケそばについての考察

僕の家から事務所に行くまでの間には、立ち食いそば屋、ハンバーガーのファストフードと牛丼屋というデフレのイメージリーダーとも言える飲食店がほぼ揃ってる場所があります。時間がない時や軽く何か食べたい時によく利用するのですが、忙しいとそういうものばかりが続く事になります。その中で最近特に気になるのが「コロッケそば」。深夜に曲を作っていたり、物を書いていたりして、ふと思い浮かぶともう頭から離れません
コロッケとそばの組み合わせって言うのを始めに考えたのは一体誰なんでしょうか?普通のそば屋さんにはまずないし、わざわざ自分で作るほどの物でもない。その感じが「ちょっとお腹が空いたけど、ちゃんとしたご飯を食べるにはなあ」という微妙な感じに絶妙にフィットするのです。
なにしろあのへなちょこなコロッケの感じがたまりません。よくお惣菜やさんで売っている「特製」とか「手作り」とか言うイメージの対極にある、「全自動」で作られたに違いないコロッケ。あの到底人の手で作るのは不可能と思われる均一な衣の中には、野菜であることを疑うほどに良く練られたジャガイモと、冷凍のグリーンピースやコーンが混ざっています。それをあったかいそばのつゆに付けて食べると、これがなんとも言えない味わいです。いや、味覚という意味での味ではなく、その「コロッケそば」というメニューそのものにすでに味があります。
立ち食いそばというのは日本独特の文化であり、こればかりは他の国にはありません。経済大国日本で、時間のために命を削る企業戦士たちが通りすぎる場所であった立ち食いそばは、一種の悲壮感を伴いつつもコンクリートジャングル(死語)で戦う男たちのワイルドな食事の場として機能してきました。しかし、最近はまた違う様子を見せ始めていることも確かです。若者や独りの女性客も多く、外国の人もみかけます。それぞれが立ち食いそばを自分のスタイルで楽しんでいる、という感じさえします。ハンバーガーが高校生、牛丼が大学生というイメージだとすれば、立ち食いそばは自立した大人のための場所という雰囲気で、立ち食いの空気にさりげなく溶けこめてこそ、この街での自己確立の第一歩なのだ、という気さえします(そんなわけないか?)。
それはさておき、僕の考える「コロッケそばの独自性」については、多くの(本当は数人の)人が賛同の意を表してくれています。こうなると「南青山コロッケそば倶楽部」とか、「東京コロッケそばの会」とかを作りたくなります。
ある人は、大胆にもコロッケそばの「コロッケ別盛り」なる革新的なオーダーをすることで、コロッケそばの新たな地平を切り開くことに成功しました。「別盛り」というのは、そば好きの人が、極たまに暖かいつゆの誘惑に負けた時に、つゆのにごりや天ぷらの食感を損なうことを避けるべく選ぶ手段であり、食に対する日本人のこだわりと美学を市民レベルで示す顕著な例と言えます。それを立ち食いの、しかもコロッケそばに応用するという発想はまさに目からうろこです。
是非試して見たいという気持ちはあるのですが、なかなか勇気がなくてオーダー出来ない小心物の自分ですが、皆さん、勇気を持って是非試してみてください。ちなみに彼女がオーダーした瞬間、店内にいた数人の男性客が、一瞬動きを止め、「俺も、それで!」と言い始めた、とのことです。



                                          2003.5.3

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