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『御身(onmi)』
寺尾紗穂
「大貫妙子と吉田美奈子と矢野顕子を足して割ったような雰囲気」などと、僕の周りでは評判のシンガー・ソングライター、寺尾紗穂さん。先日、彼女のライブを見せていただく機会がありました。噂通りにその声は素晴らしく、ある特別な時代をそういう音楽と共に過ごした世代にとっては、昔の恋人が当時のまま目の前に現れたような、抗し難い魅力がある事は間違いないでしょう。
それはさておき、ライブ、そしてこの 『御身』 を聴いて僕が感じたのは、歌と歌い手の間にある独特な「距離感」のようなものです。
どんな曲を歌っていても、彼女の歌にはどこか物事を俯瞰でみたような、語り部的な感覚があって、ともすればクールに、あるいは熱くなり過ぎてしまうようなテーマの作品も、彼女のフィルターで濾過されることによって温度が一定に保たれているのです。とてもストレートで、ナチュラルなのですが、確実に存在するその微妙な距離間が、彼女の歌を特別なものにしているような気がします。
そんな事を思いながら歌詞を読んでいたら、今度は「詩」というものがどんなものであったのか、という事を考えさせられました。メロディーがなくとも、語感とリズムだけで一つの作品として成り立ってしまうような言葉の選び方や、日常的な風景や出来事を少しだけ違う視点で切りとって一枚の絵のように描く、詩人としての独自の視点。こういう視点こそが言葉と詩とを分けるものなのではないかと思います。このところ素晴らしいシンガー・ソングライターの作品に出会う事は多いのですが、その歌の中に「筆圧」のようなものさえ感じられる、彼女のようなアーティストは希有な存在だと思います。
日常的な事をそのまま、誰にでも歌える言葉でまくしたてる音楽をポップスと言うのなら、彼女の作品はそうではないと断言できますが、僕の中ではこういう作品こそが、音楽ファンのもとにきちんと届けられるべきだと思います。
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寺尾紗穂
『御身(onmi)』
ミディ
CD
MDCL-1478
¥3,150(税込み)
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R&R LIBRARY 第93回
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