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『わたしのうた』
石野田奈津代
石野田奈津代はロックだ、と僕は思います。彼女は大きな音でエレキ・ギターをかき鳴らしたり、大げさな言葉でロックの定義を語るわけではないけれど、小さな体とアコースティック・ギターから生み出される曲の多くには、一貫して日常の中に押し寄せてくる現実との戦いがあるのです。戦いの中で研ぎ澄まされたそのうたは、聴く人の心にも、その鋭さで突き刺さります。
このアルバムにも入っている「オリオン」という曲を初めて聴いたとき、僕は久しぶりに「うた」の持っている力にノック・アウトされました。本当にいい曲だと思ったので彼女にそのまま「名曲だと思う」と伝えました。誰の心の中にでもある希望や不安、夢と現実。同じようなテーマの曲はたくさんあるけれど、多くの曲との違いは、彼女のうたにはきちんと痛みがある、ということです。当たり前の事だけれど、物事には光があれば影もあるし、どこかをぶつけたら痛いし、切ったら血が出るのです。
世の中にはたくさんの素晴らしいアーティストがいるけれど、本当に自分のうたを歌える人は、実はそんなにいないと思います。アーティストがうたを歌う時、そのうたにどんな気持ちを込めるのかは様々だし、気持ちなんて全く込めたことがない、という人だっているかもしれません。みんなを勇気づけたい、愛する人に気持ちを伝えたい、世の中にひとこと言いたい、ただ歌いたい、など、いろいろなパターンがあるけれど、どんな場合でもそのうたが持つ力は、確実に歌う人の力と比例します。それはたった一つのフレーズを普遍的に光り輝かせたりもするし、時には残酷なまでにメロディーを陳腐なものにしてしまったりするのです。「いしのだなつよ」としてデビューしてから様々な活動をし、100sのメンバーと組んだバンド「kicca」を経て再びシンガー・ソングライター「石野田奈津代」へ。生まれ持った才能だけでは決して辿り着けない、時間を積み重ねる事でしか生まれない力があることを、このアルバムは僕達に教えてくれます。
1人の歌い手が「わたしのうた」を本当に歌えたとき、それはきっと「みんなのうた」になる。彼女は随分まわり道をして、やっとそれを手に入れた、そんな気がします。
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石野田奈津代
『わたしのうた』
SONGLiFE./バウンディ
CD
DDCZ-1415
\3,000(税込み)
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