『ケイオス アンド クリエイション イン ザ バックヤード』
ポール・マッカートニー
前作「ドライヴィング・レイン」から四年ぶりの新作です。地味だけど素晴らしい!の一言。もはやポールの新譜を聴くのは僕の中では義務になっていて、出してくれるだけで充分うれしいのですが、まさか今になってこんな作品を作ってくれるとは思っていませんでした。呼べばすぐに集まるであろう一流ミュージシャンを使う事なく、ほとんどの楽器を自分一人で演奏するというビートルズ解散後初のソロアルバムと同様の方法で作られたこの作品に、僕は改めてスタート地点に戻って、もう一度自分自身と向き合うという大きなチャレンジ精神と円熟したロックスピリットを感じます。
初心にかえるというのは、その人が築いてきたものや経験してきたものが大きければ大きいほどに難しい事だと思います。そもそも今でも現役のスーパースターであり続けるポールには、その必要なんてないはずです。お金も地位も名誉もあるはずのポールが何故今こういうやり方をとったのか、それはきっと彼がどこまでも自分の音楽を探し続ける本当のミュージシャンだからだと思います。その心意気にまず「ありがとう!」と言いたいです。カッコいいぞ!ポール!
ポールらしい軽快かつひねりの効いたシングル「Fine Line」を始め、亡き友ジョージの面影をたどるような「Friends To Go」、ポール節炸裂の「English Tea」など、決して派手ではないけれど、現在のポールにしか作る事の出来ないであろう曲の目白押し。本人の言う通り、時間をかけて聴かれるべきアルバムだと思います。
ポールの作品はいつも明快で馴染みやすく、誰にでも親しまれるポップスターというイメージがあるのと同時に、そのキャッチーさ故にその反対側にある実験的な部分や深みのようなものに焦点が当たる事が少ないような気がするのですが、このアルバムはそういった先入観を覆すに充分な深みと、いつものポップさを兼ね備えた傑作になるはずです。
今回は共同プロデューサーとしてレディオヘッドやベック、トラヴィス等を手がけるナイジェル・ゴッドリッチという人が参加していますが、この人の控えめかつ細かい気配りを感じさせる渋い仕事っぷりも、ともすれば散漫なイメージになってしまいそうな全体像を見事にまとめあげていて素晴らしいです。ナイジェルさんにも「ありがとう!」と言いたいです。
ポールのような「天才」と言われるミュージシャンであっても、その才能を本当の意味で作品に向かわせるのは、やはり自分自身と向き合う姿勢なのではないかと思います。音楽から垣間見えるその向こう側にも、僕は心を動かされます。
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