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ジョアン・ジルベルト
『ジョアン 声とギター』


 ボサノヴァの神様、ジョアン・ジルベルトのライブに行って来ました。多分僕が見たコンサートの中で一番音の小さかったコンサートだと思います。恐ろしくわがままで神経質で、ちょっとした事で公演中止が当たり前という彼の評判もあり、本当にちゃんとやってくれるのか心配半分、何かやらかしてくれるのではという期待半分で望んだのですが、そんな期待を遥かに超えて本当に素晴らしかった!正直に言って、僕のボサノヴァという音楽に対する考え方が大きく変わりました。ボサノヴァは基本的に好きで良く聴いていたのですが、もとがロック/ポップスばかりの僕にとっては、リラックスしたい時やゆったりとした気分になりたい時のBGMにもなる音楽、という雰囲気だったのですが、実は全く正反対でした。
レコードやCDで聴く限り、天気の良い午後なんかに聴いていると、ついうとうとと気持ちよく眠り込んでしまいそうですが、今回のライブは最初から最後まで、眠るどころか全く目が離せませんでした。こんなにも緊張感のある音楽だとは思わなかったです。
彼の弾くギターのタッチは恐ろしく繊細で、それはまるで凪の日の砂浜に打ち寄せる小さな小さな波の揺らぎを再現しようとしている様でもあり、そのダイナミクスのコントロールは思わず息を殺す程にマクロな世界。そして複雑にメロディーラインと交差し溶け合うコード進行とリズム、彼にしか出し得ない抑制の効いた、かつ柔らかな歌声。全ての「テンション」が微妙な押し引きを繰り返して、一つの音楽になっているのです。
会場は真夏日にも関わらずエアコンは全て止められ、しつこいくらいに携帯電話やアラームについての配慮を促すアナウンスが流れていましたが、それもそのはず、と納得してしまいました。もっと言えば、東京のような常にいろいろなノイズに溢れている場所では、彼の演奏が生み出す本来のダイナミクスを感じるのは難しいのでは、とさえ感じました。
そしてはじめてこのアルバムのジャケットが説得力を持って見えて来ました。「静かに、耳を澄まして」聴いた時、彼の音楽の本当の揺らぎが聴こえてくるような気がします。ライブを見る前と見た後で、こんなに聴き方が変わったCDはなかなかありません。
日中は30度を優に超えた日の夜に、エアコンを止めさせているにも関わらず、彼は見るからに上等なグレーのスーツにタイをしっかりと結んで舞台に現れ、最初から最後まで用意された水やタオルには一度も手を伸ばさずに帰って行きました。見ている僕達が半袖でも暑いのに、そうだったのです。そんな小さな演出や心配りにも、彼のボサノヴァという音楽に対してのプライドとこだわりが体現されているように思います。
ジョアン・ジルベルト
『ジョアン 声とギター』

マーキュリー
PHCA-1067
\2,427(税抜)


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