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第42回
ジェシー・ハリス・アンド・ザ・フェルディナンドス
『ジェシーズ・ボックス』


子供の頃風邪で学校を休んだ日に、毛布にくるまってすっかり晴れた空をガラス越しに見ていると、どこからともなく聞こえてくる、自動車の音や子供の笑い声、工事の不規則なリズムや自転車のブレーキの音。いつもならその中の一部であるはずの自分が、今は違う場所で黙ってその音を聞いている、ということへのちょっとした不安と、それとは正反対の気持ちが入り混じった感覚。
僕に限って言えば、彼の声と、シンプルで暖かい演奏は、そんな気持ちを思い出させます。
これは彼自身のレーベルからリリースされた二枚のアルバムをコンパイルした日本独自の編集盤で、彼の音源が日本でリリースされるのは初めてということですが、あのグラミーを一人占め状態にしたノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」を始めとする楽曲の作者、という説明の方がわかりやすいかもしれません。
ノラ・ジョーンズの作品もとても素敵ですが、僕はこの「オリジナル」を是非お勧めします。日本盤のライナーノーツを読んでいて、そこに載っている彼のインタビューの言葉にも、僕はとても共感を覚えました。もちろんそういう部分に目を向けてくれるライターさんはあまり多くはないのですが、作品同様に彼自身の自分に対する思いと音楽に対する視点が伝わってきました。
(以下引用)
「ひとつの歌を書き終えると、作者の姿は消えて歌が独自の命を持ち始めると考えてる。そして日常的な生活や風景の一部になってゆくから、誰が歌っても構わない。もちろん自分で歌うのも大好きだけど。ほら、ボブ・ディランの歌だって、いったい何人がカバーしたことか。中にはヒドいのもあるけど(笑)、歌そのものは無傷のまま輝いている。そういう歌を作るのが理想だね」。

僕が思うに、彼は音楽に対してとても尊敬の念を持っている人なのです。それがディランの曲だろうと、自分の曲だろうと、同じ愛情を持ってる。ディランの歌がいろんな人にカバーされ、現実の世界で消費され続けても、彼にとってのディランの世界には誰も踏み込めない、ということ。ノラ・ジョーンズを始めとして、彼の曲が世界中で聞かれて、自分の手を離れてしまうことにいささかの疑問も持たずに居られるのは、彼自身がアーティストとして自分の世界を確実に持っているということの証でもあると思います。僕はその誰にも踏み込めない彼の世界が、とても好きです。それは決して閉鎖的でも、押し付けがましい物でもなく、ごく自然にただそこに存在するのです。
驚いたのは、彼がニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの都会の人間で、今もダウンタウンのジャズシーンを拠点にしている、ということ。僕のイメージではアメリカの郊外、もしくはカナダやイギリスのシンガーソングライターという雰囲気だったので、意外でした。いろんなことがミックスされて、相互に影響されながら新しいものが生まれる街で、どうしてこんなに独自の世界を構築できるのか。やはり、生まれた場所や時間を超えて、その人にしかない独自の「視点」が、作品を生み出すのかもしれません。
自分とほぼ同じ33歳という年齢もあって、とても共感できるアーティストです。こういう人のレコードを大事にリリースしようという動きがあることを知ると、まだまだ日本の音楽業界も捨てたもんじゃないという気がしてきます。後はレコード屋さんで何を選ぶか、買う人たちのセンス次第、というところでしょうか。
ジェシー・ハリス・アンド・ザ・フェルディナンドス
『ジェシーズ・ボックス』

DefSTAR RECORDS DFCP-1 \2,400 

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R&R LIBRARY 第42回
2003-03
Groovin'
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